/文・聞き手:ontonson
--- ピッチさんは昔から楽器やってたんですか? ピッチシフターズ(以下P):いや、全然。 -- 鍵盤はどうやって覚えたんですか? P:難しく言っちゃうと、自分で作った方向理論──方向学みたいなのがあって、それに乗っ取ってるっていうか。 --- 数字的に公式があって、そこを押さえて行くって感じ? P:公式って言うより、鍵盤に書いてあるんですね。鍵盤に書いてある通りに演奏する。鍵盤に方向が書いてあるんです。例えば……ある場所にひとを沢山配置して、自然に動いてもらうとすると、何となくひとが動いていく方向が自然と決まってじゃないですか。何でもそうだけど。 --- 導かれるがままに弾いてるってことですか? P:いやいや、そんな神秘的なものじゃなくて、もっと現実的で……。 --- 例えばこの音の次にこの音を弾く順番とか、そういう意味のこと? P:そうなんだけど、もっともっと紐解いていくと、ピアノとかがなんでああいう形になったかっていうことに対する方向理論なんです。あれは人間が、例えば心臓が左にあるからとか、指が5本ずつあるからあの形になったっていうか、そういう現実をもとにいつの間にか形づくられたわけじゃないですか。それと同じで、方法、方角が書いてあるんですよ、鍵盤に。 --- え!?(笑)もっと具体的には? P:それについてはビデオ出そうかなと思ってます。弾き方のビデオ(笑)。 | |||||||
--- 例えば、ピッチさんが使っているのは普通の鍵盤なんですよね。P:そうそう。普通の12音階の、普通の鍵盤。でも例えば鍵盤が持っている形ってそれぞれ全部違うじゃないですか。 --- え、どういうこと?鍵盤の形が違うんですか? P:違う違う。同じ種類のものはあるんですけど。例えばミっていうのがあって、俺はどれがミなんだかよく分からないんだけど、このミと例えばドの鍵盤を取り出してみると、形違うでしょ? そういう意味。でも、ミと同じ形をした鍵盤はあるじゃないですか。 --- 1オクターブ上のミですね。 P:ですよね。でも置いてある場所は違うでしょ。だから厳密に言えば違うって言うか。形は一緒だけど場所は違ったり、後、方向が違ったり。方向っていう言い方が難しいんだよね。 --- 分かった。ピッチさんが言っているのはフォルム? 音とかじゃなくて、形状? P:うん形状。 --- でもそれだと、ミとか、シは同じ形ですよね。同じ形を弾くってわけでもないですよね? P:それはもちろんちがう。結局、どうやって把握していくか、っていうことの手がかりみたいなものなんですよ。まず鍵盤はそれぞれ置いてある場所が違うでしょ? あと音の方角? 出た音の方角? それが一番わかりやすいと思う、どんな楽器にも言えるはずだから。ある音が出たときの、音が行こうとしている方向。どっちに行こうとしているかとか。行きたがっている方向に対する方向学理論なんです。 --- それは導かれるまま弾くということとはちがうんですか? その音の行きたがっている方向っていうのは、ピッチさんにしかわからないですよね。例えばある音を出したとして、その次に行きたがる方向って言うのは、ピッチさんにしかわかんないですよ。なんか、もうちょっと、そこの部分を具体的に聞きたいんですが。 P:うん。いや別に企業秘密にしたいとってわけじゃないから。俺は逆に伝えたいなと思っていて……。そもそも最初の時点から俺、音階じゃなくて音から入ってるから。古い電子音楽とか好きだったし、やっぱああいうヴィンテージシンセの音とか、楽器屋さん行って、聴いたりすると、欲しくなっちゃうんですよね。で、まぁ買ったはいいけど、実際には弾ける訳じゃないと。で、最初はただ単に音を出すだけだったんですけど、弾いていくうちに、なんとなく違和感のない音作りみたいなことを考えるようになっていったんですよ。 |
--- それはいつぐらいのことなんですか。P:7年前とか6年前とか。でもピアノの弾き方の本とか読んでもぜんぜんわからなかったし、それで自分なりにやろうかと思った。最初はね、とにかく「伺った」んですよ。お伺いをたてるというか。例えばCDとかレコードって、教えてくれるじゃないですか。チャーリー・パーカーとかね。俺チャーリー・パーカーにすごい教わってるんです。「こうやるんだよ」みたいな。 --- ああ、一緒に弾いてみるっていうことですか? P:そうそう。 --- でもチャ−リ−・パ−カ−を弾いてる時も、コピ−しているわけではないんですよね。セッションするとか、そういう感じ? P:たぶん聴いてから音を出すから、聴いた音に対してのその反応みたいな? そういった音の出し方。どうすればチャーリー・パーカーっぽくなるのか。そういう意味ですごい優しく教えてくれたのは、サン・ラーです。特に最近再発がたくさん出てるようなタイプのやつ。その辺を狂ってるように集めてたから。毎日買ってたからね、レコード。それを聴いて一緒に演奏して、筋肉がまず覚えた感覚を作っていったんです。それがまあきっかけっていうか、間口にあって。で、その後、検証するのよ。どうなってんのかなあって、鍵盤を眺めながら。そうすると……なんか、大体か二つに分かれたんですよ、見た目。鍵盤が。鍵盤のグループが。まずドレミっていうグループ──三つ白鍵があって、黒鍵が二つあるっていうグループと、あと白鍵が四つあって黒鍵が三つあるっていうグループに、俺の中では分かれたの。それが俺にとって、ぱっと見た瞬間に把握できる、いわゆる一番最初に手が届く、認識。鍵盤の認識だったんですね。 --- 構造的に。 P:そうそう。その方法なら、ぱっと見た瞬間にどうなってるか分かる。それをもう一つ、一個上げた段階にしたんです。例えばドとファが同じ形をしているなとか、鍵盤として。 |
P:いや、もう見た目。そういう風になってるんですよ形が。で、黒いのはみんな同じなんだよね。ただ、左にあるか、右にあるかっていうのがちがう。 --- そうですね。二つあるか、片方にどっちかがあるかですよね。 P:そう。で、今度は楽譜を作るんです。まだその楽譜を見ながらは弾けないんですけど、一応再現は何となくできるようにしてあるっていうか。 --- 楽譜っていうのは、いわゆるおたまじゃくしの音符が書かれた楽譜ですか? P:いや、模様みたいな。方向楽譜みたいなものです。この曲はこっち向き、別の曲はやや斜め向きとか、そういう違いがある。 --- ちゃんとルールがあるんですね。じゃあ1曲が1ルールっていうことになるのかな? P:うん。 --- でも例えばメインとなるメロディと、その背景になるメロディとか、曲って色々パーツがあるじゃないですか。それも、すべて同じ一ルールで全部考えてるんですか? P:全部それだけだね、多分ね。 --- ピッチさんの言うルールって要は、普通に考えるとコードですよね。このコードでやるっていうことですよね。 P:あーそうだ! たぶんそう。俺ね、最初、ファーストとセカンドだけなんですけど、スタイロフォンっていうのを使ってるんですよ。あれ、コードしか書いてないんですよ。多分あれがベースになってるんだと思う。まあ、サードからはムーグなんですけど、やっぱりそれもスタイロフォンと同じ気持ちで弾いてるっていうか。自分にとって、コード進行って何か、後にあるものなんですよ。俺、前にちゃんとピアノ弾ける人に一緒に弾いてもらった時があったんです。何か曲を流しながら一緒に弾いたんです。で、そうすると俺の方がその曲の先を行くそうなんですよね。それはどうしてかというと、いわゆるコードっていうのはすでに進行が決まってるものだと思うんだけど、それが俺の中でぐちゃぐちゃだからなんですよね。だから、先行ってるように聞こえたんだと思う、多分ね。そもそも俺はコード自体読めてなくて、結局ぐちゃぐちゃのかたまりでしか考えてないんだけど、でもコード進行の中で何が入ってるかは分かるっていうか。だからコードの中で四番目のやつを先に弾いちゃう可能性もある訳ですよ。そういえば、PEARLS BEFORE SWINEって、ESPのフォークのひとたちがいるんですけど、その中の曲で、よく自分の実験に使ったりひとにそれを説明している曲があって、一小節目のフレーズをループさせて、ずっとループさせてると、サビが聞こえるんですよ。 --- ピッチさんの頭の中に? P:いや、実際に聞こえる。ほんとに聞こえんの。混ざって、なんかハーモニーみたいな、わかんないけど和音みたいになって、そこで生まれることがあって、それがそのままサビに使われているわけ。俺もそれをやっているっていうか。 |
--- たくさん思いつくルールの中で、逆に「これはやらない」と決めているルールもあるということなのかな?
P:うん。まぁ絶対やんないかどうかは分からないけど、今はやってないことはありますよ。結構わかんないからやってないことが多いというか、苦手だから後回しにしてるのかもしれないけど、でも自分の性格から言うと、多分それもやらないといつか気がすまなくなるかも。これは良かったのか悪かったのかわからないんですけど、結局なんか失敗がないっていう方法をとっちゃってるんです。失敗っていうのはあり得ないんだってこと。
--- 音楽に失敗なんてないということ?
P:弾いちゃいけない鍵盤はないんだってこと。
--- えー、そんなことないんじゃないですか? そもそもピッチさんの音楽に不協和音ってそんなにないから、弾いちゃいけない鍵盤を無意識のうちに選んでるんじゃないですかね?
P:そこはね、すごい高速で弾く必要がある。そうすると、弾く鍵盤はどれでもよくなるんです。すごい高速での演奏ってことは、そのタイミングさえ崩さなければ、何弾いても良い。大丈夫っていうか失敗があり得ない。
--- なるほど。それにしてもすごいのは、ピッチさんが今までずっとその独自の方法論でやってきてることですね。少なくとも今までは。壁にあたったりはしないんですか?やりつくしたみたいな。
P:あー、うんとね、まだまだ自分のルール(方法論)は作れると思ってるんです。まだまだある。だから、やってもやっても途方に暮れると言うか。あまりにも選んだ世界がでかすぎて、自由すぎて…。このくらい自由じゃないとつくれないっていうのもあるんだけど、でもここまで自由にすることもなかったかなって思う。ルールは枯渇することはないけど、心配なのは体力くらいかなぁ?全部のルールを試せる分の体力があるかなって(笑)。
| ▼リリース作品一覧はこちらにございます。ピクチャー盤から楽器まで豊富な品揃えです! ▼ピッチさんご本人による作品紹介は、【解説その1】と【解説その2】でご堪能下さい。 |


--- 例えば、ピッチさんが使っているのは普通の鍵盤なんですよね。
--- それはいつぐらいのことなんですか。
